夢をみる

高校受験は、ほんとうに憎たらしいことに余裕綽々だったので、たぶん本ばかり読んでいた。たぶん。そのときに出会って、衝撃的だった本がそれからの人生に大きく影響した。エントロピーについて考えはじめたのもその頃だし、サブリミナル効果についても読んでいた。マーフィの法則も役に立った。そんななかでも特大の衝撃は、湯川秀樹の自叙伝「旅人」。
湯川秀樹ノーベル賞受賞の研究に至るまで、どんなことを考えて、どんなことをしたのか。詳しいことはさっぱり憶えていないが、暗闇と光明。世界の最先端にただ、ひとりで立つ興奮と孤独と怖れ。
これを読んで、中学生の終わりに、長岡半太郎の阪大か、湯川秀樹の京大にいければいいなあと思いはじめるようになった。
もちろんその時点で、自分か京大や阪大にいけるのかどうか分からなかったし、分かる方法もなかったし、まわりの大人にもいなかったから、夢物語なのか手に届くことなのかも皆目検討がつかなかった。
それでいいのだ。
こうなればいいなと思ったし、高校に入ったら初日から「志望校は阪大か京大」って言ってた。まわりは、おかしいんじゃないかと思っていたと思う。普通は、自分の実力を知って、その後に志望校を決めるものだからだ。
でも、大人になればようやくわかる。できるかできないかは脇において、どうしたいのかを決めること。どうしたいのかを言葉にして口にすること。これが、ものごとをうまく進める秘訣なんだ。もちろん、お父さんが希望を口にし始めてから、奇跡がつぎつぎに起こり、扉は向こうから開いていった。お父さんが、開けたのではない。
自分の胸に手を当てて、夢をみよう。そして口にしよう。